2009年12月1日火曜日

街はぱれえど

気がつけば、街にはクリスマスの気配があちこちに。銀座ミキモトのおなじみのクリスマスツリーもシックに輝いている。

クリスマスキャロルが流れる頃には君と僕の答えもきっと出ているだろう。ってどんな答え?

知り合ってまだ間もない男女がクリスマスあたりにイベントを企てる時に、いろんなドラマが展開される。
自分自身も想い出すとこっぱずかしくなるような事が沢山あった。

で、この話は当時ずっと組んで仕事をしていた相棒が、徹夜を覚悟したイヴの夜、突然「帰って良いか?」
と真剣な目で訴えた事に始まる。まあ、相棒がクリスマスイヴの夜になにか退っ引きならない事情で仕事を
引き上げようとしているのは理解できたので、まあ、良いけど〜と、やや不機嫌になりながら彼を見送る。

彼はコートを抱え、オフィスを出ると、足早にタクシー乗り場に向かっていった。

彼の向かった先は・・・



『クリスマスイヴに某有名ジャズクラブのディナーショーを予約した彼は、まだ知り合って間もない彼女を待っていた』


願をかけてスパークリングワインを選び、その日一番のスペシャルメニューをオーダーし、まずは一人で
軽くハウスワインなどを嗜みながら、待っている。スペシャルライブがはじまるにはまだ少し時間がある。

彼は余裕で、ワイングラスを置くと、レストランスタッフに声をかけ、料理が冷めないように、
まだ待っててほしいと告げる。彼女が来てから、はじめたいので、と。
スタッフの女性は有名店ならではのとびきりのホスピタリティで、かしこまりました、と微笑む。

クリスマスの優雅なディナーはそういう大人の余裕が大事だ。開演10分前になると
程よくお酒がまわったカップルの楽しそうな会話があちこちから聞こえてくる。
彼の待ち人は未だ来らず。余裕の彼も少し時計に目をやりながら、気にし始める。
そろそろ料理をサーヴしないと、ライヴが落ち着いて鑑賞できない時間に・・・

スタッフがそれとなく彼に声をかける。前菜だけでもお出しいたしましょう。
そうしてください、と彼も答え、またしても完璧な微笑みがスタッフから。

彼のテーブルに前菜が用意された頃、演奏がはじまる。ピアノトリオに女性ボーカルでシンプルかつスタンダードな
極上のクリスマスチューンが続く。ホワイトクリスマス。セットリストは順調に消化され、もう半分くらいか。
彼の向かいの席にはまだ誰もいない。

アップテンポな曲が終わると、絶妙なタイミングでバラードがはじまる。キャンドルが揺れ
恋人たちの宴は最高潮に達する。その日何組の恋人たちが将来を誓い合っただろうか。

スタッフが時計に目をやり、彼に近づく。まだ、お待ちしますか?

え、ええ・・・。

わかりました。では、お待ちしましょう、と相変わらず極上の微笑みが返される。

アンコールが終わり、ステージライトが消え、足早に席を立つ客、ゆっくりと食事を進める人、
ライブの余韻を語り合う恋人同士、店内は喧噪に包まれる。

彼の前の席には誰もいない。

微笑みのスタッフが彼の前に。
どういたしましょう?

・・・言葉に詰まる男をみて、すべてを理解したように、スタッフが言う。

ま、まだ、お時間はございます。もう少し、お待ちしましょう。

うなずくのが精一杯の男。

その後、時間は刻々と過ぎて閉店30分前になる。さっきまで恋人たちで賑わっていた店内も人影まばらに。

当店のスペシャルメニューです、ぜひお一人様でも味わっていただきたいので、お出ししてもよろしいでしょうか。

彼はうなずき、遅いディナーがはじまる。たった一人だけの。

否、スタッフ全員の、完璧な微笑みに囲まれながら。

おわり

という話を、その翌日バツが悪そうに、でも笑いながら、自虐的に話してくれた相棒はとてもスタイリッシュな紳士です。
そして、とてもいい人です。いつもいろんな教訓を僕に与えてくれます。

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