俺は美大に入るとすぐ、音楽サークルに入り、その部室に入り浸り、講義をさぼって、ずっと楽器を弾いていた。たまたまその部室の前を通りかかり、ギターを弾きながら歌う俺の姿をみていて、「一緒に映画を作らないか。」と声をかけてきた男がいる。映像研究会のヤスという男だ。「今のは君のオリジナル?そういう曲を僕の映画のために作ってくれないかな?」とかなんとか言ってた様な気がする。ついでに出演してくれないかなあ?とも。「そんなものには興味はないよ。」と断ったら、後日、女性を3人連れて部室にやってきた。「僕の後輩に君の事を話したら,ぜひ会いたいというので、連れてきたんだ。」といいながら。「私たちも映像研究会で、面白い作品を作ろうと思っているので、ぜひお願いします!」ときた。その無闇な明るい三人娘に気を取られて、「あ、え〜と・・・」と口ごもっていると,「私たちの作った映像作品を観に来てください。今日の午後6時頃から、私たちの編集室で上映しますから。」と,相変わらず明るく言って、その場所が記された案内を置いていった。ヤスは微笑みながら「来てくれるよね。」と念を押して去っていった。彼等が去った後は、なんともいえない沈黙に支配されて、楽器を弾く気持ちは失われ、コーラの空き缶にタバコの吸い殻を放り込んで、椅子の上の案内の紙をポケットに突っ込み、昼下がりの部室を出た。
きまぐれに、つづく
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