2013年5月11日土曜日

君を好きだった頃の事 その2


部室はキャンパスの一番端っこにあって、部室の前には運動場があった。良く晴れた日に部室の前のベンチに腰掛けて、アコースティックギターでセッションをしているととても気持ちがよくて、小平市の空の下なのに、勝手にカリフォルニアに想いを馳せていた。

デザインを専攻していたので、家でやる課題が多く、夜中まで作業をして、寝坊をしてしまう事も多かった。家にいる時も大体音楽をかけていたので、(眠る時も)とにかく好きな音楽をずっと聴いていられる事が何よりも嬉しかった。ジャズを聴きまくり、ボブマーリー&ウェイラーズにハマり、福生のレゲエバンドと一緒にライブをした。ニューウェイブのロックのレコードを買い、RCサクセションのステージを観た。国立の多摩蘭坂で写真を撮り、スローバラードを歌いながら歩いた。あらゆるジャンルのカッコいい音楽を全部聴きたいと思った。気に入ったレコードジャケットはすべて壁に並べて、いつまでも眺めていた。

その日は午後の講義を終え、玉川上水沿いを歩き、鷹の台の駅の近くで食事をして帰る。一人暮らしにも慣れはじめていた。ポケットの中からさっきの映像研究会の案内が出てきた。今から、戻ればまだまにあうかな、と思ったけど、結局その日もずっと音楽を聴いて過ごし、映像研究会の事は忘れていた。

そうして、1週間くらいたった頃、学食でトレイをもって場所を探していると、ある女性が少し微笑みながらこっちを見ている。あれ、誰だろう、同じ専攻の人ではなさそうだし・・・

「どうして来てくれなかったんですか〜?」

「え?」と言うのと同時に想い出す。
「あ、あの時の、映像の3人の・・・」
その時は3人まとめての印象しかなかったので一人だけ違う場所で会うと、とっさには判らないものだ。

彼女は怒ってはいないけど、なんか言いたそうな目つきでこっちを見ている。

「・・・あ、あの日はちょっと締め切りの課題がたてこんでて〜・・・」
「え〜真面目なんですね〜課題ちゃんとやってる〜・・・でも来てくれないから、ヤスさんが、さみしそうでした〜」

そういわれると何かとても悪い事をした気がする。時間は本当は作れたはずだった。ちょっと彼らの作品を観に行けば良かったのかもしれない。

「あ、そうか、今度会ったら、また観に行くって言っておく・・・」

「え、ホントですか!?じゃあ、今日言っておきます、いつにしますか?」

矢継ぎ早に来る。こうなると向こうのペースだ。なんせこちらはお盆をもって席を探してる途中でなんともかっこつかない感じなのだし。

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